イジワルしたら泳いだ

公園に、柵があり、その柵は木でできていて隙間がでかいので犬ならその隙間をくぐって通り抜けられるけど深窓の令嬢であるりょーはそれを拒むのでした。

あたしが柵をヨッコラショと乗り越えて、ホラりょー、来い、と引き綱を軽く引いて促すと柵をくぐります。でもりょーにとっては「ママといっしょに通った柵」とそれ以外の柵はカンペキに別のものらしく。今日も池でアヒルをおどかしていたムスメは、サクサク先に行ってしまったママと柵で隔てられてしまいました。柵の途切れたところまでいっしょに戻ってやらないと、永遠にあたしのところへ来られません。めんどくせえ。付き合いきれんわアホ。

前にも何度かこういうことがあって、オットに笑い話として聞かせたら、
「りょーちゃんはそうやってすぐにキミを頼る悪い癖がある。よくない。自立を促すべきだ」
と言われたことを思い出しました。このオットのコメントには続きがあって、「だからボクの遊び方がちょっと気に入らないだけですぐキミに言いつけに行く。ムカツク」という子供っぽい主張で終わっていたのですが脳みそがまだ寝ていたあたしは後半部分を忘れていて
「そうだな、いつもあたしがなんかしてくれると思ってもらっちゃ困るな。今このとき極道一家が現れたら、悠長に柵の始まりまで戻ってられないもんな」
りょーが柵くぐりを覚えるまでのこととココロをオニにしてずんずん先に歩いて、りょーを見失ったフリまでしました。

困ってヒューヒュー言ってるりょーのところから俺のところまでは水草の生い茂った浅い池の淵で、さらに水上に突出するように建てられた東屋に遮られて彼女はあたしの姿が見えず、柵伝いにこっちまで来られるような道はありません。柵をくぐらなくては歩道は使えません。さあくぐれ!そして陸地に到達しママのもとへおいで!とココロのなかでエールを送りつつ水草で見えないりょーにまた一声「りょーちんどこー?」と白々しく声をかけたそのとき

ドボーン

と音がして、まさか、と思ったら

バッシャン、バッシャン

と音がして、水草をなぎ倒しながら小鹿のようなジャンプでこっちに来るりょーが見えました。泳いでる…。つーかアップアップってかんじがしなくもないが…。そんなにまでして、河でも水深10センチがやっとだったりょーが、水の深さもわからない池に飛び込んでまであたしを追ってきてくれたことに胸が熱くなるかと思ったけど自分は意外にも冷静で

「あーあー池臭くなる…フロ入れんのかよ朝からひとりで…」

と座り込みたくなるほどブルーだったのが自分でも意外でした。

せっかく池を横断して来てくれても、柵をくぐれないりょーは相変わらず柵の向こうでオロオロとあたしを見上げるだけで、ホントせっかく来てくれて悪いんだけどさー水泳を選ぶほど柵がダメとは思わなくてさー、だから向こうまで戻ろうな、柵の始まりまで行って会おう!「えー!」とショッキングな顔で途方に暮れるりょーを残してずんずん戻ると、しばらくあたしの行く方向を見ていたりょーは、その方向で帰るんだ!と気付いたらしく、ドボーン!とまた飛び込んで、エッサホイサと泳いで追ってきました。

あーあーあーあー。あたしが甘かった。ムスメは可能性がいっぱいだ…